ポンメノコ岩の奇跡

(ポンメノコ、アイヌ語、和訳すると美しい女)

石狩川の中流域、神居古潭(カムイコタン、神の村の意)は、不思議な所である。ここに至る前の石狩川は川幅百米に及ぶ大河だが、神居古潭に差しかかると鹿が飛べば渡れる川幅の急流となり、近くに住む者はきっと地下に巨大洞窟があり、そこを水が流れているに違いないと言う。何度も架け替えられた吊り橋のある辺りは昔は滝で、その下流の円形の大きな深い淵は今もその面影を残す。その中央には水がよっぽど減った時でないと、お目に掛かれないポンメノコ岩があり、地元のアイヌでも一生に一度か二度拝むことが出来るかという話である。

石女(うまずめ)で里に帰され、それから何十年も、山際に一人で暮らす老婆が吊り橋を渡っていると、メノコ岩が見える。「ああ」と思い初めて見る岩を拝んだ。見ると芦で編んだ小舟が大きな渦の中をクルクルと回っている。その中ではみどり児が楽しそうにコロコロと笑っている。老婆は舟が岸に近づいた時、持っていた鍬で縁を引っ掛け岸に引き寄せた。抱き上げると青い眼をした女の子であった。

みどり児はすくすくと美しく優しい娘に育ち、人の心の内が解る様になった。娘は、老婆が孫を欲しがっていると気付くと、満月の夜に淵に一人で行き、飛び込み深く潜り、しばらくして青い石を一つ抱えて来た。家まで大事そうに懐に入れて温めると青い眼の男の子になった。それを見せた時の老婆の喜びようはなかった。それから一年も経たないうちに老婆は亡くなったが、一人寂しく逝くと思っていた人生に、娘が出来、孫が出来、やすらかに頬笑みながら旅立った。弔いが終った頃から、娘と孫を見掛けた者はいない。ただその年に再び姿を現したポンメノコ岩が、赤子を抱いているのをアイヌの古老達は不思議がった。 (奥田修一 作)

子供を抱いている様な日本屈指の神居古潭石の名石から、画家 奥田修一がインスピレーションを受け、新アイヌ民話「ポンメノコ岩の奇跡」を創作し、その場面を風景画家の経験を生かし再現空間としたユニークな取り組み。

(文化庁支援事業)