「月影」  100×80p 2009年 〈上富良野町〉

 北海道のほぼ中央、十勝岳の中腹おおよそ標高千メートルの、アカエゾマツの原生林を一冬描いた。登山口の温泉宿からカンジキを履いて、汗をかいて後で体が冷えてしまわない様に、ゆっくりゆっくり雪の斜面を登って行くと、このモチーフがある。

 樹高百尺。幹回りは両手を広げてもその半分まで届くまい。百年、二百年と風雪に耐えた枝は、雪の重味で斜めに下に向って伸び、この樹の風格を増す。群立する姿の美しさは日本でも屈指であろう。あるときは山霧をまとい、吹雪にかすみ、月光を浴び、彩雲を背に立つ、この樹々が沈黙の中に重ねた時の重さを思うとき、何か大いなるものの意志が感じられ、我々のかすかな生をも思わずにはいられない。