「大雪残照」  90×72p 2005年 〈上富良野町〉

 今年も千望峠に立って晩秋の風景を描いた。雑木の紅葉が終わり、落葉松の黄葉が始まる頃になると、大雪から十勝岳連峰の山々は雪化粧を始める。ゴォーと空が鳴る音が聞こえ、頭上を通り過ぎて行く、気流が激しいのであろう。コバルトブルーの空を背景に、V字形の編隊を組んで白鳥が南を目指す。

 空耳かと思ったが耳を澄ますと、近くの枯れ草の土手から、キリギリスの鳴き声が聞こえる。初雪も数日前に降り、あたりが真っ白になるような、霜の朝も何日もあった。東京なら真冬の気候であろう。二、三米まで近づくと、鳴き止む。すると別の場所で鳴き始める。どうやら、離れて三匹いる様である。土手の上の、草の薄い所で鳴くのに狙いを定めて、傾斜面をよじ登ると、また鳴き止み姿を見せない。草をゆすり追い出そうとすると、今度は下の道端の先程のが、間を空けず鳴きながら歩いているのが見えた。飛び降りて行って指を近づけても、のろのろと歩いて逃げるばかり。触れるとやっと数センチ跳ねた。自分の身を守るために鳴き止み、仲間を守る為にこごえる体でまた鳴き始めた様に見えた。

 突然に、三十pの雪が積った。昨日までキリギリスが鳴いていた土手も雪の下である。冬の間、暖かい部屋で飼ってはどうかという、私の迷いにあっけない答えが出た。そして、それはキリギリスの望んでいたことだと、今は思う。