「残照の斜里岳」  80×40 2009年 〈清里町〉

 斜里岳を描きに行った。アイヌ語でオンネヌプリ「老いた山」と呼ばれるこの山は、長い年月の風雪により谷が深く刻まれた端正な姿で、以前から写真では見ていたものの、実際に対面してみると、胸の高鳴りを抑え切れない。まさに理想の山である。山麓で描き始め三泊して、六時間の道のりを一旦帰宅する。

 数日間アトリエで画を眺めながら、体調の戻るのを待つ。山の雄大さが出ていない。もう少し離れた所から裾野を十分にとって描こうと現場に戻る。山に雲がかかる時が多く、三泊するも山の構図が決まらない。体調も下り坂、帰宅。

 三度目の斜里来訪。うろうろして三日目にやっと崖を上った所で構図が決まる。翌日も一気に描き、夕方から帰宅する。アトリエで見るもなんとなくしっくりこない。山も空も唐松の防風林も畑も響き合っていない。

 四度目の斜里、天気が良く山が良く見える。山を画面中心からやや右にずらす、この方が伸びやかである。手前の十本程の唐松の遠近感を強調する。空気感が出た。先週からみると大分紅葉がすすみ、裾野の成り立ちがはっきりとして来た。横に長く伸びる唐松の並木に赤くなった山ぶどうを太い筆のタッチで描く、距離感が良くなった。雲が決まらない。空の下の方にうすいオレンジを加える。この方が柔らかく、山の背後と空の角度が明確になる。雲を奥から山を越えて来る様に描く。山と雲との対話が生まれた。